「坂本龍一です。2ヶ月に一度お届けしているレディオ・サカモト。皆さん、お元気でしたか。ここ2ヶ月ね、日本では水害でね、ひどい被災を受けた場所があると思いますけども、影響を被った方々、家族を亡くした方々もいらっしゃるかもしれませんけど……本当に、なんと、言葉にしたらいいか。すごくひどい水害が起こりますね。日本だけではなくて、これはもう世界中でこういう異常気象というのが起こっていて、異常がもう常の状態になりつつあるというような、そういう感じがしますけども。また水害じゃなくても、その猛暑……今は落ち着いているかもしれないですけど、このニューヨークでもね、今年の夏は35度……日本に比べたら蒸し暑さは少ないかもしれませんけど、ニューヨークでもかなり湿度の高い状態が続いていて。ニューヨークってのは緯度的には、日本でいうと青森県くらいなんですけれども。もう、なんかトロピカルな、熱帯的な、感じに……夏はなってきて、どうなってしまうんだろうという感じですけれども。ただ自然というのは均衡を取ろうとするので、暑ければより寒くなり、どこかに湿度が集中していれば、どこは非常に乾くと、いうような事が起こりますよね。カルフォニアだけでなくて世界では山火事もひどく起きています。これは暑さと乾燥のせいでしょうね。ヨーロッパでも、今まであまりそんな大規模な山火事がなかったようなギリシャ、スウェーデンですかね。北欧でもすごい広範囲のたくさんの山火事が起きていて、被害が多く出ていそうですけども。ほんとにどうなってしまうんでしょうか。」
<近況:『LIFE』とはまた違った、オペラではない何かオペラのようなもの>
「ここからは近況報告なんですけど、7月、8月はね、ほぼ僕はニューヨークの自宅に籠もって、映画関係の仕事を、今も……今日もしていました。基本的に9月までそうです。今年は残念ながらね、夏は日本に行けなかったんです。精を出して鶴の機織りみたいに籠もってやってるわけなんですけど、ただちょっとだけ9月に入って、3日くらいだけロンドンに行きます。というのは、カムデン・アート・センターという所があるんですけど、そこで開催中のアーティストの毛利悠子さんのソロの展示が行われているんですけども、毛利さんのインスタレーションの中で、ささやかなLIVEパフォーマンスをすると。もうコンサートとも言えないですね……あの、毛利さんのインスタレーションの特徴っていうのは、音が必ず付いてくるというか、一種のサウンド・インスタレーションなんだと僕は思うんですよね。割と僕は、音楽として考えているんですけども、その中で、毛利さんのインスタレーションが発する音といっしょに、"音あそび" をする……そのような気持ちでやろうと思っていますけど。もう本当に1日だけの為に行って、帰ってきてまたニューヨーク籠もって、鶴の機織り状態になるという9月です。ところがですね、一転して10月はですね、非常に忙しくて(笑)、あちこち転々とします。韓国の釜山に行って、実は僕は行くの初めてなんですけど釜山は。とても楽しみにしています。魚介類の豊富なところですよね。釜山に行って、東京に少し戻って、それからまたソウルに行って、今度、オーストラリアのメルボルンとシドニーに行って、また東京に帰ってくるというね、もう……1ヶ月の間にあちこち転々とするんですけども。あの、ま、それぞれの場所で違う仕事があるんですけど、オーストラリアのメルボルンとシドニーは、今年の6月に、ドイツ人のアルヴァ・ノトと、二人でやっていた『Two』というLIVEの再現というか、その続きとして、オーストラリアで演ります。それで、とりあえず今年のLIVEは全部終わりだと思います。この『Two』という形も、今後どこかでやるかどうかというの、まだ決まっていません。ちなみに、次のライヴ情報としては、今、なんとなく……来年5月に香港でやろうという話になっています。」
「えっと、お聴きになっている方もいるかもしれませんけど、オペラに非ざるオペラみたいな……1999年に『LIFE』というオペラと称するものを作りましたけども、あれとはまた違った、でもその通常のオペラではない何か、オペラのようなもの……を企画していて、来年は主にその制作に充てようと思っているので、あんまり、LIVEの機会というのは多くないはずなんですね、来年はね。それでうまくいけば、再来年2020年にそのオペラ非ざるオペラみたいなものを、どこかで公開したいなと思っています。まあ、いくつか……イタリアのパレルモのオペラ歌劇場とか、やりたいと手が挙がっているとこがあるので。日本ではまだ残念ながら、正式にいろいろなところに声をかけていないので、どこかで実現できるのかどうか、まだまったく未知数ですけども、もちろん日本でも出来たらいいなと思っています。」
「ちょっと前のこちらのニューヨーク・タイムズに、僕がよく行くレストランのプレイリストを作った、というような事が記事になって、日本でも紹介されたそうですけども。これがニューヨーク・タイムズに出た途端に、世界中の知り合いからメールが来て(笑) ……やっぱりそのニューヨーク・タイムズの伝播力というんですかね、これ改めて見直しましたね。職業柄、いろいろなインタビューなどは受けているわけなんで、其処此処に顔は出すことがあるんですけど、これほどの伝播力とは。改めてニューヨーク・タイムズのブランド力というんですかね、驚きました。」
<教授のおすすめ、本、CDブック、映画の紹介>
本『決定版 からだの教養12ヵ月』
「で、ここからはちょっといくつか、紹介したい本やCD、映画の話があるのでやります。まずですね、本ですけど。僕がいつもお世話になっている鍼灸師の治療師といいますか、若林理砂さんという方がいて、今までもたくさん本を出されているんですけど、先月、本を出されまして、それは『決定版 からだの教養12ヵ月』というタイトルで、僕が帯コメント、推薦コメントを書かせて頂いたんですけども。じゃ、まずはその若林さんからメッセージが届いているのでお聞きください。」
『レディオ・サカモトをお聴きの皆さん、坂本さん、こんばんは。毎度(笑)、若林理砂です。今、坂本さんにもご紹介していただきましたが、先月、私の著書『決定版 からだの教養12ヵ月』が発売されました。この書籍に関しては、坂本さんが私の治療室にいらっしゃるちょっと前に出た本の改訂新版ですね。で、この書籍に関してはものすごい思い入れがあって、私が持っている技術を全部突っ込んで書いたような本なんですけれども、過去それで書いたものに、もうちょっと足したいな、分かってきた事がたくさんあるので……で、凄く力を入れて書いた本なんですけども、いつか私は坂本さんに帯を書いていただきたいっていうのが、実は夢だったんですね。だけどちょっとやっぱり頼むのはハードルが高いわけです(笑)。私の書籍は、ご存知の通り他に書いたものもたくさんあるんですけれども、割と実用書で、軽くて読みやすいのは読みやすいんですけれども、ちょっとね、坂本さんに何か紹介していただけるような書籍だとは、自分ではちょっと自信がなくて。ですけれど、この本だったらば、私は坂本さんに堂々と帯を頼めるっていうふうに思ったんです。なのでちょっと勇気を出して頼んでみました。そしたらば、坂本さんがとても嬉しそうに引き受けていただいたので、本当によかったなというふうに私は思いました。えー、そうですね、それと、坂本さんのお身体を預かるようになってから、坂本さんの身体にはいろんな事がございましたけれども、その間、ずっと私は診させていただきました。で、本当に元気になってよかったなていうふうに思っております。出来れば、いただいた帯のコメントみたいに、何回も読み返してください、坂本さん(笑)。あの、本当にいろいろな所に行かれて、様々なご活躍をなさっていらして、で、気温も違うし、食べるものもいろいろありますでしょうし、お付き合いもあってお酒もたくさん飲んでるの、私はよく存じ上げております。ですけど、とにかく元気で、たくさん良い音楽を作っていただきたいなというふうに思っております。』
『で、私はちょっと、うちの患者さんの中には割とミュージシャンだったりとか、ダンサーの方だったりとか、あとは、本を書いていたりとか、漫画家さんだったりとか、クリエイター関係の方っていうのが患者さんになぜか多い治療室なんですけれども、皆さん、不規則なお仕事をなさっていて、生活習慣をどうしたらいいのかなっていうふうに考えていらっしゃる方がとても多いように見受けられます。不摂生が祟ったりとか、やっぱりどうしてもお付き合いが多いという方が多いので、身体を壊しやすいとか、不規則な仕事になってしまったりとかって方、多いと思います。私が思うに、坂本さんのファンの方たちも、凄くクリエイティブ関係のお仕事、多いと思います。この本ぜひ読んでいただけたらなというふうに考えております。ちょっと厚みが厚いんですですけれども、私はこの本のことを通称 "鈍器" と呼んでおります。ちょっと分厚いです、測ってみてたら 2.5cm以上ありました。ですけど、パラパラっとめくってレファレンスというか辞書のように使っていただくのがいちばんいいんじゃないかなと思います。頭から全部読まなくても、ちょっと気になるところを調べるようなかたちで使うことが出来る本になっております。これが1冊あると多分、あまり他の本を買わないでもいいかなっていうぐらい自信をもっておすすめ出来る本ですので、よろしかったらどうぞっていうふうに思っております。それでは、若林理砂でした。坂本さん、よろしくお願いします。』
「若林さん、ありがとうございます。日本に行ったときはね、なるべく伺って身体を診てもらうようにして、まぁ、不定期になりますけども。一応、鍼灸というなんですが、若林さんは非常に勉強家で、西洋から東洋、治療あるいは身体に関すること、ありとあらゆることを勉強していてですね、まだ若いのに、その知識量たるや、大変なものがありますけども。何を聞いてもすっと答えてくれる生き字引きのような人ですね。そのような膨大な知識をね、僕ら素人に分かるようにこうやって本を書いてくれたり、また伺ったときは優しく話をしてくれるわけなんですけど、この本は特に実践的というか毎月まいつき、身体のこと、食養と言いますけど食べる事……養生するって言いますけど、やっぱ食べる事、もちろん寝ることもそうなんですけど、身体を鍛えたりとかっていうよりかは、食べること、そして日常の立ち振舞い、そういうのが非常に大事だということですね。とても東洋的な発想だとは思うんですけれども。それが東洋的な武術の発想なんかにも繋がっていくんだと思うんですけれども。だから、立ち方、歩き方、座り方、そして食べ方。そういうものがとても本質的に大事だという事の実践的なことの手引きですね。ぜひ手にとってみてください。あの、本当に僕も含めて(笑)、この番組を聴いている方々も不規則な生活をしてる人も多いかと思いますので、ぜひ手にとってみてください。」
■『決定版 からだの教養12ヵ月 ――食とからだの養生訓』
https://www.shobunsha.co.jp/?p=4827
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CDブック『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』
「次はあのCDブックなんですけど、ワールド・スタンダードというバンドのリーダーと、随分もう80年代からやっている人ですけど、鈴木惣一朗くんという人がいまして。ある日、連絡がきて、「耳鳴りに悩んでいらっしゃいますか。」というんで、はい。もう長いこと悩んでじゃいるんですけど……ということでですね、「そういうCDブックを作るので、ぜひとも話をしましょう」と言われて、はいはいといって、2時間くらい鈴木くんと話をしたんですけども、それの本とそのCDというのが出来たので、その鈴木さんからメッセージがあるので、聞いてください。」
『レディオサカモトをお聴きの皆さん、教授、こんばんは。鈴木惣一朗です。えー……教授は春に会いましたが、いかがお過ごしでしょうか。今年は東京はすごい夏が暑いので、そちらはどうかなと思っています。『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』をリリース、めでたくできまして、経緯というか……なぜこの本というかCDブックを作ったか。教授にはお話しましたが、もう4、5年前になりますけどれども、仕事中にラップトップで作業中に、右耳の耳鳴り、高音性になるんですけれども、それを発症して、……自分の耳から聴こえているという感覚がなくて、近くにある冷蔵庫を覗いたり、エアコンの方を覗いてみたりしたんですけれども、これはどうやら自分の耳から出ているんだなということに気づいて、すごいショックを受けて。その後、教授もそうだったように、いろんなお医者さん、ドクターショッピングていうんですけど……僕は6軒ぐらい回って、最終的に慶応病院のお医者さんに診ていただくことになって落ち着いたんですけども、周りのミュージシャンにも非常に、耳鳴りであるとか、メニエール病、難聴……あまり皆さん、カムアウトはもちろんしないんですけれども、非常に多いのは僕はよく知っていて、自分でそうしたことをカムアウトするのに抵抗はあったんですけれども、なんかこのことを機会にして……というか、音楽と自分の耳にもう1回折り合おうかなという気になりました。でも直接的なきっかけは、昨年の教授の『async』というアルバムを聴いて、教授もそうした大きな病に契機にして、でも作品に向かっていく……すごい大きな励みに、後押しをしてくれたという言い方をしても過言ではないと思います。教授と知り合ってからもう、30数年の時間が経っているんですが、ゆっくり話をしたのは実は初めてで、非常にリラックスした対談をさせていただいて、終わった後に身体が温かくなるような、非常にほっこりとしたというか、安心したというんですかね、そういう機会を持てて、本当にありがとうございました。いろいろな話をしたんですけれども、教授はいろんなところに行かれるので、北極の話であるとか、アフリカの話であるとか、そういうところで感じたものの話をしてもらいました。でもその中で、一点、僕の考えていることと符号していた点は、ノイズについてでした。僕は耳鳴りを発症してから、ベッドの枕の横にラジオを置いて寝ています。ラジオはどこの局にもチューニングしていなくて、ただホワイトノイズだけが発生される……いわゆるサーッていう音ですよね。普通の人にとっては不快とされるノイズを、僕は心地よい……と思って、今でも毎日かけて寝ています。それはいわゆる、ノイズに自分の気持ちが向かうことで耳鳴りが和らぐ、という感覚を初めて覚えて。この話は教授もすごく反応していただいて、まあ、教授の場合だとピアノを弾かれますが、ピアノの音は消えていく瞬間のことをお話をされていたのが凄く印象的でした。音が生まれる瞬間というものに、皆さん着目しがちですが、音が消えていく時にノイズがどんどん大きく、音が減衰していくので、周りの暗騒音といわれるノイズがどんどん大きくなってくるわけですけれども、そこに耳を澄ましている……という話をされていました。これは僕も全く同じで、音が消えてノイズが増えていくところを心地よいと思って着眼している。レコーディングでも、そうしているそうで、あぁ、僕と同じなんだなというふうに思いました。さて、そんな『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』ですが、今夜は教授が特別に1曲選んでくれるそうで、嬉しいです。教授、よろしくお願いします。鈴木惣一朗でした。』
「鈴木くん、どうもありがとう。そうですね……ちなみに(笑)、YMOの三人、細野さん、高橋くん、僕……たまに会いますよね、今年はなんか40周年だということなんですけども。たまに会う時にですね、やっぱりこの(笑)……10年以上、15年くらいですかね。その寄る年波というんですかね、最初の挨拶はだいたい健康……というか不健康ですね、病気自慢ていうんですかね。僕の方が悪いよ、という不健康自慢から始まりまして、その中のひとつに、みんな3人とも耳鳴りは抱えていますね。これは、半分ミュージシャンの持病のようなものかもしれませんけども。一説によると、老年層の1/3は耳鳴りがあるそうで、まぁ老人病とも言えるんですけども、特に耳を酷使してきたミュージシャンは多いでしょうね。僕も若いときから、何度かスタジオで、突然、ものすごい音量の音を聴いてしまって入院したりとかね、そういう事故としてそういうことが何度かあるので、昔のそういうことも原因になってるのかもしれませんけども。若い時はそんなことはね、気にしないで、将来年取ってから耳鳴りになって苦しむなんてこと考えないで、爆音を皆さんも聴いていたし、今もそうしている人いるかもしれませんし。このニューヨークの地下鉄でなんか乗ってもですね、イヤフォンなのに全車両に聴こえるくらいのでかい音で音楽を聴いている若い人がいますけども、そういう人を見るとね、あぁ、可哀想になぁと。これでもう50、60になって本当に苦しむだろうなぁと。……ただ、お節介なことは言わないようにしていますけども、可哀想だなぁと思ってしまいます。そんなふうに、本当に耳鳴りに悩んでいる人は多いし、僕は音楽家だから耳鳴りで悩んでるなんて、なかなか言いづらいというかね、言えない感じもあったんですけど、ここで、鈴木くんと堂々と耳鳴りの話ができて、お互いの悩みとかですね、だいたい似たようなもんですけど、どうやって対処するかってのは、これはまた違ってきますね。僕も鈴木くんのように、4ヶ所くらい行きましたかね、西洋医療のところにも。もちろん、その東洋医療的な、良いとされるようなことも、だいたい目につくことは、ほとんどやってみたましたけども、さしたる効果はないんですよね。西洋医療の方では、原因は未だに分からないんですね。対処療法しかないということでね。結局はその自分次第というか、気にしないようにする。……これが一番効くようなんですよねえ。まぁ、困りますけどもね。気にしたらほんとに気になりますからね、やってられません。もうどっかから飛び降りたくなる日もありますよ。僕の場合はね、日によって違うんですけどね。これがまた個人個人、症状が違っていて、本当になんで起こるのかっていうのが、誰か解明して……欲しいですね。原因が分かればね、治療法も見つけられるんじゃないかと思うんですけど。というわけでね、これも、興味がある方には、とてもおもしろい内容だと思います。で、鈴木くんも話をしていたように、その耳鳴りと(笑) 音楽家にとっての音ってのはとても関係が深いので、えー、その音が消える、あるいは立ち上がっていくところ、そしてノイズということをね、話してましたけども。じゃ、このCDブックの中から1曲、それに相応しい曲をかけてみましょうか。9曲目の「生まれては消えてゆく音」というのオンエアします。」
■鈴木惣一朗a.k.aワールド・スタンダード 公式サイト
http://www.worldstandard.jp
■『耳鳴りに悩んだ音楽家がつくったCDブック』<付録CD:Music for Ringing by WORLD STANDARD>
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK203
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映画『あみこ』
「本、CDブックときたので、次は映画をひとつ紹介したいんですけども。えー、先日、ニューヨークのジャパン・ソサエティという、日本とアメリカの交流のための機関というんですかね……そういうものがありまして、当然、日本の文化伝統みたいなことも、多く催してるわけなんですけども、その恒例のJAPAN CUTSという、年に1回の映画祭がありまして、割と日本の最新映画を選んで、2週間に渡ってみせるという、そういう催しなんですけども、その中で、なんと、21歳の女性の監督の作品を演るというのでね、観に行ったんですよ。まぁ30本くらいそのJAPAN CUTSでは演るので、全部毎日観ることもできないので、いくつか選んでね、おもしろそうなものを観るんですけども。『あみこ』という、若干21歳の山中瑶子さんという女性が、初めて……19歳の時に撮ったというね(笑)、映画だというんで、もうどうなるのか分からないんですけど、一応観に行ったんですね。ちょっと本人から、コメントがきてるので聞いてみましょう。」
『こんばんは。初めまして、映画監督の山中瑶子です。教授、このような素敵なラジオデビューをさせてくださって、ありがとうございます。ちょうど1ヶ月ほど前にですね、ニューヨークで毎年開催されている、JAPAN CUTS という日本映画の映画祭があって、そこで私が監督した『あみこ』という作品も上映さえてもらいました。で、私は自分の上映をいちばん後ろの端っこの席で観ていたんですけど、前に座っている方の髪型が、なんか坂本龍一みたいでお洒落だなぁって思ってたんですよね。そしたら、なんと教授ご本人で、もう本当にびっくりびっくりていう感じだった……今でもまだびっくりしてて。初めてのニューヨークだったんですけど、凄まじい思い出になりました。ただあの、実は最初に教授をお見かけしたのは、今年2月にあったベルリン国際映画祭での表彰式だったんです。『あみこ』は、今年のベルリンのフォーラム部門というところに出品していまして、ただ教授はコンペティション部門の審査員でしたので、きっと『あみこ』は観ていただく機会ないのだろうな、と思いつつも、表彰式の間、2階席からずーっとステージの方に念力を送っていたんですね。いつか教授、あみこを観てくれーって。そしたら、まあなんと叶ってしまったというわけ、です。凄い、凄い、うん、ふふ(笑)。そして、教授お墨付きの『あみこ』なんですが、実は先程、9月1日、初日上映を終えまして、9月7日まで1週間限定です……東京の東中野にある、ポレポレ東中野という映画館で、毎日夜9時からレイトショー上映しています。1週間限定なので、あと6回きりです、6回です。私は今、21歳なんですけど、『あみこ』は19歳の時に初めて撮った映画です。監督、私も、役者もスタッフも全員素人で、プロが一切絡んでいない。18歳から20歳までの、みんな全員そのぐらいの年齢で、とっても若い自主映画なのですが、老若男女問わず、本当に様々な人に楽しんでいただける映画になったと思います。ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。また次回作も待機中なのですが、教授に観ていただけるように、これからも映画製作を頑張っていきたいと思います。はい、では、映画監督の山中瑶子でした。ありがとうございました。』
「山中監督、ね、21歳のメッセージいかがだったでしょうか。僕はっきり言って、とても素晴らしいと思ったんですね。とにかくね、力がある。エネルギーがある。もちろん僕も日本の映画もフォローしてますけども、なんかやっぱりね……パワーのない、エネルギーのない、よくは出来ているけども佳作というかパワーが感じられない映画がこのところ多いなぁと思っていたんですね。やたらに漫画が原作のアニメとか実写とか、そういうものが多くて、僕はうんざり……していたんですよ。これはもう全然違う。ま、そういう漫画原作のアニメなどに受ける世代、が作った全然違う映画というか。僕はこれを観たときに、その若々しさと一種の乱暴さ、若さゆえの乱暴さ、エネルギーが……僕が大変好きで、一種の原点のように感じている60年代初頭からのフランスのヌーヴェルヴァーグと言われるゴダールとかトリュフォーなどの映画のあの乱暴さ、若さ、斬新さに近い匂いするなと……思ったんですね、正直な感想。でも、そんなにアートムービーになり過ぎず、エンターテイメント性がちゃんとあって、非常にポップだ。色の使い方もとてもポップだと思いました。音楽の使い方も良かった。それで、後で話を聞いたら、19歳の時、そして出演者もスタッフもみんな、18から20歳ぐらいの間。しかも制作費は山中監督のポケットマネーで、せいぜい30万円ぐらいしか使っていなくて、いや、そんなー……でもね、そんなにボロい、高校生が作ったような自主映画のようにみえない。ちゃんとしてましたよ。本人は謙遜して、ボロいんですけどとか言ってたけど。そんな事なかったですよ、ちゃんとしてます。でも大変、次回作が楽しみ。ぜひこの勢いを保ちながらですね、おもしろいものを作ってもらいたいですけども、監督が言っていたように、昨日から東中野の、ポレ(↘︎)ポレ(↘︎)って言っていましたね、発音をね。ポレ(↗︎)ポレ(↗︎)って僕らは発音するのですが(笑)、どちらが正しいんでしょうか。で、もともとスワヒリ語ですね。スワヒリだと、どう発音してたかな……ポレ……ポレポレ……ポレポーレ……ていう感じかな。だからポレ(↘︎)ポレ(↘︎)に近いかもしれないですね(笑) ……日本語、僕らのポレ(↗︎)ポレ(↗︎)になっちゃうのなぜでしょうかね(笑)、そんなことどうでもいいんですけど、東中野のポレポレ座とところで限定1週間の公開で、あと6日間ですかね。あのタブラのU-zhaanが、「あ、僕、客の呼び込みとかチケットのもぎりに行きましょうか。」って言ってましたけど、ちゃんと行ってるのかな。U-zhaan、どうでしょう。そんなことでですね、とてもこれから活躍が楽しみな山中瑶子監督です。ほんとにぜひ、この機会を捉えて観てください。」
■映画『あみこ』予告編 (YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=m8LhgB7n59w
■ポレポレ東中野
https://www.mmjp.or.jp/pole2/
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<坂本龍一 「この2ヶ月で聴いた曲から紹介」プレイリスト>
「ここからは僕が、この2ヶ月間で聴いていた、ふだん聴いてる音楽のプレイリストを紹介しましょう。ていうかね、これ直近の2日くらい前に聴いていたものなんですよね、今回は(笑)。……というのは、まぁ聴いてもらえばわかりますかね。まず、これです。知らない人も多いだろうな、Maria Muldaurというシンガーソングライターというんですかね、アメリカの。」
- Midnight At The Oasis / Maria Muldaur
「次はですね、もう……笑っちゃう人も多いかもしれませんけど、はい、いきます。Little Featという、今は亡きカリフォルニアのバンドですね。70年代に活躍していました。」
- Long Distance Love / Little Feat
「はい、次も70年代ですね。今も元気で活躍していますけども、巨匠 Van Dyke Parksですね。僕も何度かお会いして、素晴らしい本当に、一種、天才的な巨匠なんですけども。その中でも、僕がいちばん、70年代から好きな、Van Dyke Parksといえば、という曲を聴いてください。」
- Be Careful / Van Dyke Parks
「で、大体こう、もう(笑)、今回の曲調を見れば分かったでしょうかね。あの、これ僕が70年代に聴いていた曲ばっかりを、ふとしたことでね……2日前かな一昨日かな。これらの曲をばーっとブラウズしていてですね、あ、こんなのもあった、これも好きだった、っていうのが出てきまして、それを紹介していますね。次はですね、やっぱりその頃に聴いていた、Phoebe Snowという、やはりシンガーソングライターの曲です。」
「えーっと、次にもうひとり。同じ頃に、とても懐かしい……Livingston Taylor。これ有名なJames Taylorの弟、確か弟だったんですね。」
- Somewhere Over The Rainbow / Livingston Taylor
「で、ここで終わってもいいんですけどもちろん……美しく70年代の懐メロって感じになるんですけど、そうしたくないのが僕の天の邪鬼なところでして。最後に短い曲なので、全然経路の違うNino Rota……イタリアの大映画作曲家ですけども、『Satyricon』という映画の曲でですね、『リカのボートの上で』という曲を聴いて、9月のプレイリストを終わりにします。」
- Sulla Nave Di Lica (On Lica's Boat) / Nino Rota
「さて、本当に今回は変わったプレイリストだったんですけど、どうでしたか。リスナーの方たちも、あー……懐かしい、なんて思う年代の人もいるかもしれませんね。意外と僕、70年代の前半から真ん中ぐらいかな……こういうのよく聴いてたんですよ、うん。」
<『エコレポート』── エコロジーオンライン 上岡 裕>
「エコロジーオンライン 上岡裕です。今年の夏は本当に暑い夏でしたね。40度近い猛暑が続く北関東。30度くらいになると、涼しいなという感じの夏でした。実はこうした高温は北半球全体に広がっていて、ヨーロッパとかアメリカでは山火事が頻発しちゃったり、北極圏では30度を超えたり、例年では融けない海氷が溶けだしちゃったり、アメリカや中東では50度を超える気温なんかになったそうです。本当に人間が住めないような地域も出てきているような感じですよね。」
「で、秋になってくると、涼しくなって忘れてしまいがちなんですけど、実際に温暖化の影響はこれからひどくなるって言われているんです。地球温暖化で高温が続くと、「正のフィードバックが働く」っていうふうに言われているんですよね。どういうことかというと、気候が温暖化することによって、起こる現象がさらに温暖化を加速させてしまう。例えば、海が氷に覆われていれば太陽の光を反射するんだけど、氷が融けてしまうと海水が太陽の熱を吸収してしまう。また、温暖化でシベリアの凍土が融けると、地中に眠っていた温室効果ガスのメタンが大量に放出される、といった具合なんです。」
「僕らは今、世界の最貧困のひとつ、マダガスカルで、途上国の支援をやっているんですけど、実際にマダガスカルなんかでも気候変動の被害が出ていることがいろいろ分かってきました。知り合いのカメラマンがこの前、現地を訪れたんですけど、マダガスカルの南部では雨が降らない為に、穀物が育たず、海岸沿いから運んでくる水を買うことで、喉の渇きを癒やしたりとか……するぐらいにもなっちゃっているようで、ただでさえ家計が厳しいマダガスカルの人たちが水を買わなきゃいけなくなって、貧困に輪をかけるという状況になっているそうです。そして水がなければ当然、食料も出来ないので、食糧難になって、国連が食糧支援を始めると、いうような話になってるみたいなんですよね。」
「で、その、こうした雨が降らない現象とかっていうのは、マダガスカルだけじゃなくて、アフリカの同じような緯度にある周辺諸国でも起きていて、その地域はやっぱりマダガスカルと同じような貧困の問題を抱えているところが多いわけです。彼らは、実は地球温暖化の原因になる温室効果ガスを出してるかっていうと、ざっくりとした比較でいうと、日本人が例えば9、CO2を出すとしたら、アフリカの人は1しか出さない。つまり、1/9ぐらいしか彼らはCO2を出さないような暮らしをしている……にも関わらず、その気候変動の被害は彼らが受けてしまう、というような状況が起きてしまうというのが、今なんですね。ただ、彼らもその中で、日本人だったら「緑を守ろう」とか「地球温暖化を防止しよう」っていう活動する人たちも増えてるんですけど、日々の暮らしの中で、薪とか炭とかが必要だから、結局、その目先の燃料が欲しくて森を切ったりとかして、森林破壊が広がってしまって、二酸化炭素を吸収できる森がどんどん失われていってしまうというようなことが、またここでも生じている。我々は、その本当に大きな規模の地球温暖化を止めるというところまでいけるかどうか分かりませんが、それによってその貧困の上に気候変動被害を受けるというようなマダガスカルの人たちに森を増やす為に、木以外のエネルギーの使い方、作り方を教えたり、木を一緒に植えたり、あとはそのアグロフォレストリーのような、森の中からお金になる果物を作ったりというようなことをいっしょに、手掛けようということで動いています。11月にはまたマダガスカル訪問して、バイオガスの作り方をタイの先生たちと皆さんで考えるというイベントをやってくる予定になっています。」
「坂本さん、星の王子さまで有名なバオバブも、気候変動のせいなのか、枯れ始めているそうですよ。何とかしたいですね。」
<デモテープオーディション総評>
U-zhaan「レディオ・サカモト、ここからは僕、U-zhaanと長し……」
長嶋「長嶋り……あ(笑)。」
U-zhaan「ごめんなさい(笑)。skypeで(ニューヨークの)坂本龍一さんにも繋がっています。」
坂本「よろしく。U-zhaanさ、ポレポレ行ってもぎりやってんの?チケットのモギリ。ちゃんとやってる?」
U-zhaan「え、あの、何で(笑)。あれ、それ聞きました?」
坂本「やってないの?」
U-zhaan「1日から公開ですよね、いや、僕本当に、あの……」
坂本「だから、昨日からなの。」
U-zhaan「そうですよね、あの、『あみこ』っていう映画が、教授がちょっとすごいおもしろいっていうので、送ってくださって。で、『あみこ』、宣伝に出来たら協力してあげてくれってメールが教授から来て、僕、いやどうしたらいいのかなと思って、とりあえず、上映されるポレポレ東中野に行ってみたんですよ。」
長嶋「おお、行ったんだ。」
U-zhaan「行ってみたら、じゃあ人手が足りないんでもぎりをお願いします、って(笑)。」
長嶋「ははは(笑)。」
U-zhaan「で、本当に9月5日にもぎりを……」
長嶋「あ、やるの?(笑)」
U-zhaan「9月5日に一日(笑)。」
坂本「上映自体は昨日から、9月1日から始まってるんで、たった1週間しかやってないんで、宣伝しないとそれは。じゃあ5日、お客が殺到しますよ。」
U-zhaan「5日は僕がいます。もぎりをやっています。教授は日本にいないんですか?その頃。」
坂本「いればね、客の呼び込みとかやりますけど。」
U-zhaan「いや、残念だな(笑)。」
坂本「今回はすごいですね。」
長嶋「ねえ、いっぱいおもしろいのが。」
U-zhaan「聴いても聴いても終わらないっていうぐらい作品があって(笑)。」
坂本「作品も多くて、あと、内容も濃いですね。」
U-zhaan「そうですね。あとみんな、教授も長嶋さんも、すごくフィールド・レコーディングが好きだから、どの人もどこかにフィールド・レコーディングの要素を入れるようになってきているのがおもしろいですね(笑)。とりあえず一回だけ車が走るとか。」
長嶋「入れとくか、みたいな(笑)」
坂本「入れといたら選んでくれるんじゃないのーみたいな。そんなに甘くないですよ。」
U-zhaan&長嶋「はっはっはっは(笑)」
長嶋「桟橋思いっきり(笑)。」(※「浮き桟橋きしみ音@岡山県宇野港」jack19998さん)
坂本「桟橋思いっきり掴まれちゃいましたね。あとなんか、でもYouTube組がなんか、変だよね。変ていうか(笑)、純粋に音楽を投稿してくれている人の方がおもしろいものが多い、不思議に。」
長嶋「あとやっぱり映像を見ちゃって、音だけ聴いたときに、あ、なんかちょっと違ったかもみたいな。」
坂本「それは大きいね。」
長嶋「うん、やっぱり、結構左右されるなぁと思って。」
坂本「ここでね、映像みないで音だけ聴くとあれって感じに……」
U-zhaan「そうですね。映像で選んじゃうと、そういうことが起きますね。」
長嶋「さっき、起きてましたね。」
U-zhaan「ただ、あの桟橋は意外と映像なくても全然よかったですね。」
坂本「あれは大丈夫です。強いです。」
長嶋「本当そう。」
坂本「いや、良かったです。楽しみました、ありがとう。次回もお願いしますね、お二人さん。」
RADIO SAKAMOTOオーディションに、インターネットから作品を応募できるフォームができました。作品はファイルのアップロードのほか、YouTubeのURLを指定しての投稿も受け付けます。
詳しくは、エントリーフォーム内の応募要項をお読みください。
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