「坂本龍一です。2ヶ月に一度お届けしているレディオ・サカモト。あっという間の2ヶ月でしたが、皆さんお元気でしたか。あっという間……本当にあっという間ですねえ。3月から5月……2ヶ月、もう桜の季節もとうに過ぎ去り、日本ではゴールデンウィーク。なんかね……その年の開けるお正月になると、もうその年は終わったな、と(笑)。この1年はもう見えたと(笑)、という感じになるぐらいに、時の経過が早いんですけど、皆さんはどうお過ごしでしょうか。」
<真摯に聴いてくれている人たちが世界中にいて、本当に嬉しい。── ニューアルバム『async』>
「日本では3月の末に、僕のアルバム『async』がリリースされまして、本当にちょっと驚いたことに、概ね、評判がよくてですね。別に何の期待もしていなかったんですけど、別に評判を得るために作ってるわけでもないので。ただ、自分が納得いくものが出来たので、まあ聴いて頂こうということで出したんですけども。とても評判がよくて、もちろん、嬉しくないわけはないんですけども、真摯に聴いてくれている人たちが世界中にいて、本当に嬉しい限りなんですけど。近々の活動としましては、4月25日と26日に……海外の『async』のリリースの直前ですよね、ニューヨークの上の方の、東側っていうのかな。パークアベニューって言う名前ですけど、そこにパークアベニューアーモリーという大きなおおきなパフォーマンススペースがありまして、そこにいくつか小さいな部屋があるんですけども、その中のベテランズルームという、"ベテランの部屋" という小さいけどとても素敵な……なんか聞くところによると、改修費に20億円かかったとかって言われるんですけど、僕も何度かそこは面白い企画をやっているので聴きに行ったことがあるんですけど、そこでパフォーマンスすることを誘われまして、25日・26日、この『async』を演ってきました。演るといってもですね……今ちょうど、東京のワタリウム美術館で『async』の展示を行っていますけど、あのような『async』の音楽展示……に一部、生で参加するような形でやりました。で、もちろん今ワタリウムで展示しいてるような、あのたくさんのモニターとかは条件的に出来なかったんですけど、ひとつスクリーンを天井に吊りまして、高谷(史郎)さんの映像を、生で動かす映像ですね……と一緒に、ほぼ『async』の全曲を弾くと。それももちろんサラウンドの環境で、その中で一部生で弾けるところは生で演ると、いうことをやりまして。なかなか熱い評判というかリアクションを頂きました。うーん、これがねえ、たった二日でとても小さな部屋で限られたオーディエンスの前で演ったんですけども、もう、準備が限られた時間の中で、そのー……ま、展示するのも本当に神経を使っていろいろなことで大変ですけども、またそこにこうLIVEを組み込むっていうのがなかなか、自分で想像していたよりも大変で、かなりガクッと疲れましたけども(苦笑)、本当にたくさんの方に喜んで頂けたので、ものすごく終わったあとの皆さんの高揚感……エキサイトメントっていうか、そういうものを目にして、本当に報われたというか、そういう気持ちになりました。これは僕にとっても貴重な体験でした。」
<UAさんとの本番直前の舞台袖で「ちょっと自由に弾いていいかな?」── NO NUKES 2017 >
「えー、そうです、あれからもう6年以上が経ったわけですけども、3月17日と18日の2日間、今年も『NO NUKES 2017』を開催しました。で、あのー、6年前のときはですね、UAさんは、まだ沖縄に住んでたのかな。『割烹着〜ず』というようなお母さんたちといっしょにビデオでメッセージを頂いて、今回、初めて生で共演するということだ実現したんですけども。今回のそのNO NUKESで演るときに、本番直前の舞台袖で『ちょっと自由にピアノ弾いていいかな?歌えるよね?』とか言って(笑)、それまでのリハーサルとは違って、本番でいきなり自由に弾いてしまって、少し緊張してたみたいですけども、いや、大丈夫。まぁ分かってたんですけど僕は。UAさんは、もう別に伴奏なしの一人の歌でも、十分に聴けてしまうというか、聴衆がもう入り込んでしまうくらい歌の力が強いので、バックで何を弾いても大丈夫なんですよね、あの人は(笑)。それが分かったので、いろいろ遊んでみましたけど。だから、いっしょに表現する人間としては、楽というか、自由に想像……その時そのときのイメージで羽ばたけるので、とても自由で楽しいですね。ぜひまた何かの機会にいっしょに演れたらいいと思いますけども。」
<後藤正文さんからのメッセージ>
「レディオ・サカモトをお聴きの皆さん、坂本龍一さん、こんばんは。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文です。この番組で僕が登場というと、最近はまぁ『NO NUKES』という感じになってしまってるんですけども、そうなんです。今年も6回目を開催してしまいました。ミュージシャンの間でも、こんなイベントは早くなくなったらいいなっていう話をしてるんですけれども、残念ながら、そう簡単にね、全ての核兵器がなくなったり、原子炉がなくなったりはしないわけで。まぁ長い戦いになるのかもしれませんが、原発ひとつとっても、世界的に貧乏くじ……みたいな形になっていて、ニュースを見れば東芝もね、大変なことになって。本当に今一度、みんなで自分が求めていることって何なのかなっていうのを考えないといけないと思いますし、自分の暮らし方、ミュージシャンたちは本当にたくさんの電気を使いますけれども、それでもね、心あるミュージシャンたちは、今ステージの電源を太陽光に変えたりとか、そういう取り組みもどんどん広がっていますから、そういう形でいろんな場所から、いろんな活動が始まっていくのが一番いいと思うので。100年なのか、200年なのか、或いはもっと早く20年なのか、分かりませんけれども、世の中より良くなっていくように、これからも活動していけたら、そして早く NO NUKES が終わったらいいなと僕は思っています。坂本さん、末永くお元気で、いてください。」
<UAさんからのメッセージ>
「レディオ・サカモトをお聴きの皆さん、サカモリュウイチ教授!こんばんは、UAでーす。NO NUKES、6度目の開催で、ようやく出演することができました。教授との初共演なんですけれども、ステージに出る前に、"もっと自由に演っちゃっていいかな?" って仰られて、ものすごくドキドキ、そしてアドレナリンとエンドルフィンと、いろんなものが出ちゃいましたけども、私のいろんな想いを込めてメッセージがあるんですが、その自分の真意といいますが、そこの想いというのが、こんなにも堂々と、勇気といいますか、確信を持って歌えるというのかな、大きな海の中で……歌えたような、そんな感覚に陥りました。日本の為に、そして地球の為に、そして宇宙の為に、誠実な音楽を私たちは続ける……まずはこれです。そして私は、今日のこの喜び……こんな歌を歌えたこの日のお陰で、またずっともっともっと歌っていたいなって改めて思うことができました。ありがとうございました。」
<僕ら大人たちは、子どもが演奏するには大変過ぎる曲なんじゃないかと躊躇した ── 東北ユースオーケストラ>
「3月25日・26日、東北ユースオーケストラのコンサートがあったんですね。でー……今年は2回目でした。去年が1度目の、初のお披露目コンサートやって、去年と同じ東京オペラシティというところでやりました。今回は東京と、福島県の郡山でも、どうしても地元でね、やって欲しいという声が大きかったので、今年は福島県で公演をすることになりましたけども。今回のメインの曲は、マーラーの交響曲の1番だったんです。で、これは大人が勝手に選んで押し付けたのではなくてですね、子どもたちがやりたい曲をアンケートを募ってですね、いちばん人気があったのがこの曲なんですね。正直、僕ら大人たちは、子どもが演奏するにはちょっと辛い、大変過ぎる曲なんじゃないかということで、躊躇したんですけども……躊躇していたというか、直前までしていた(笑)、いや本番までしていたかな(笑)。でも、本番で躊躇してやらないっていうわけにはいかないので、その心は非常に本番を迎えるまで、心配で心配で、もう止まってしまうんじゃないかと、いうぐらいにハードな難しい曲で。で、やはり、東北ユースオーケストラの子どもたちは、岩手・宮城・福島の3県に跨っているので、月に1回合同練習をするんですけども、その集まるのもなかなか大変で、集まれない……都合により参加出来ないメンバーもいるわけなんですね、その時どきでね。なので、もう本当にこのコンサート直前の、3日間の泊まり込み合宿をやったんです。前回もやったんです。今回もやりましたけども……ここが勝負で。しかも3日目にやっと全員集まる事が出来たみたいな、そのくらいの厳しい練習環境の中で、僕が言うのもなんですけど、ちょっと驚くべき演奏をね、力強い演奏を子どもたちがやってくれて、ちょっと……驚きました。今年からって言うのも変ですけど、東北らしくっていうのを、#東北でよかった っていうハッシュタグができましたけど、東北らしさを表そうという、出そうということで、またいろいろな話をしまして、今年は東北三県に伝わる代表的な民謡ですね、これを取り上げました。3曲をメドレー風にして、私の友達で気鋭の現代音楽作曲家の藤倉大さんに、オーケストレーション、アレンジを頼みました。これがなかなか、また難しくてですね(笑)、演奏が大変で、でも、とても本番では立派にこなしました。ま、そのような新しい試みをして、その東北らしさっていうのを、今後更に深く追求したいと思っていますけども。」
<東北ユースオーケストラの皆さんの声>
「宮城県富谷市のふくずみまおです。トロンボーンパートをやっています。とても良い人達に恵まれて、監督や指揮者の柳澤さんとかにも出会えて、演奏会でもたくさんの拍手をもらえて、とても嬉しかったです。
「宮城県仙台市出身の、大学2年生、はたけやまあかねです。ヴァイオリンを担当しています。半年間、頑張ってきた仲間と、坂本監督と、柳澤さんと、素敵なゲストの方に囲まれて、凄く幸せな時間でした。」
「岩手県盛岡市出身、高校3年生のえんどうひろとです。トランペットパートを担当しています。えー憧れの曲をたくさん演奏できて、また演奏後に、観客の方々からたくさんの歓声を頂いて、とても感動しました。」
「福島県福島市出身の高校2年、えんどうりりかです。ファゴットパート担当しています。感動しました。本当に、皆と一緒に出来るのが、こんなに素晴らしいことなんだな、と思えるような演奏でした。」
「えーと、柳澤寿男です。今回、東北ユースオーケストラで指揮者を担当させて頂きました。あのー、やっぱりみんなそれぞれに、オーケストラという……オーケストラってなんか社会の縮図みたいなところがあって、で、何かその皆でひとつのもを作りますから、やっぱりそれには、共同作業にはひとりひとり責任を果たさないと成り立たないので、段々そういうものが出来るようになってきたっていうですかね。それが、お互いの信頼関係みたいになって、音に繋がってきているんじゃないかなっていう風には思うんですけども、まあ最初の頃はただ本当に震災があって生まれたオーケストラということだけで、ただ集まったっていうだけだったんですけども、活動的には3年目になってるんですけども、そういう中にも、皆で一つのものを作っていく、ひとりひとりが責任を果たしていく、それからひとつのものを作っていく喜びとか、大切さとか、そういうものを感じているんだと思います。」
<坂本龍一 × 鈴木正文(『GQ JAPAN』編集長) 対談>
こちらは、2017年4月1日にINTERSECT BY LEXUS - TOKYO にて行われたトークショーの模様をオンエアしました。
司会「それでは、今回のゲスト坂本龍一さんと鈴木正文編集長をお呼びしましょう。では、皆さん大きな拍手でお迎えください。」
鈴木正文「いや-……どうも坂本さん。今日はありがとうございます。レクサス インターセクトであれなんで、車もちょっと絡んでいると。」
坂本龍一「だいぶ絡んでますよね(笑)、車に。」
鈴木「で『async』と言うタイトルのアルバムなんですけども、これってどんな想いでつけられたタイトルですか?」
坂本「ま、結局僕らは常に同期している音楽を聴いて育ってきているし、同期するっていうのはきっと人間の本能でもあるんですよね。バラバラにやれ、というと難しくて、合ってきちゃうんですよね。」
鈴木「メトロノームが、だんだん合うみたいな?」
坂本「あれは、またちょっと違うんだけれど(笑)、そういうYouTubeもありますけど。」
鈴木「これでまた、ドライブして聴いているのと、パッセンジャーで聴いているのってまたちょっと聴こえ方が違うと思うんですよね。」
坂本「これね、僕あの、長いこと僕は運転免許を取らなかったんですね。実はアメリカに行くまで免許を取らなかったんですよ。まあ僕はミュージシャンですから、音楽を聴くと目を瞑っちゃうんですね。音楽を聴き入ると。で、まあ非常に危険だと。良くないと思って、あえて取らなかったのね。そういう状態になってしまうんですけど、すーさんどうですか?」
鈴木「僕はあのー、車の中で音楽聴かないです。」
坂本「あー、危険だから?」
鈴木「車のエンジンの音とか、ロードノイズとか、そういうのが好きなんですね。」
坂本「あー、じゃあの電気自動車ダメですか?」
鈴木「電気自動車、ダメですね。でも、電気自動車もモーターの音がするんですよ。」
坂本「はい、しますよね。」
鈴木「一番最初に僕はテスラっていう……スポーツカーの方ですけど、箱根で乗って、『ヒーーーーン』ってやっぱ音がするんですよ。」
坂本「はいはい……今、良い声でしたね。高い声出ますね(笑)、出ないですよ、僕(笑)」
鈴木「車が好きだから(笑)」
坂本「疑似オノマトペが得意……」
鈴木「『フゥーーーブッ』とかね(笑)」
坂本「あ、うまい!」
鈴木「『フゥーーーゥーーーーゥーーー』とかね。」
坂本「オノマトペが上手い!」
鈴木「だいたい良いエンジンというのは、いい音しますね。それこそ、ノイズっていうふうに、感じないような、洗練された音がするんですね。なぜなら……回転運動じゃないですか。前後のピストンもあって、それがカムとかを介して回転していくし、バルブもこうやって……非常に……」
坂本「まぁ、直線運動を回転用に変えるということですよね。」
鈴木「で、恐らく全部が……」
坂本「無駄のない」
鈴木「そうですね、もちろんシリンダーの数によっても違う。」
坂本「音楽的に考えてもそうですね。」
鈴木「だから4気筒はダメなんですよ。」
坂本「4気筒はダメ(笑)」
鈴木「ダメっていうか、ちょっとガサツなんですね。ガサツと言うのは、二次振動が必ずあるので。」
坂本「何がいいんですか?」
鈴木「6気筒は、お互いに打ち消し合って、非常にそのヴァイブレーションがない……」
坂本「それはね、シンクロナイゼーションですよ。」
鈴木「そうなんすよ。6気筒と12気筒が、すごくシンクロするんですね。4気筒と8気筒は、それはどうしても固有振動が出てくるんですね。」
坂本「さっきちらっと、すーさんが言った、メトロノームってありますよね、音楽で使う。あれをたくさん何十個と用意して、全部違うテンポにするんですよ。それで、ある台に乗せて走らせる。当然最初は、全部違うからバラバラでノイズのようなものになるんですけども、その台をね、揺らすの。そうすると、これは人為的ではないのに、不思議なことに……合ってきちゃうんですよ、だんだん。5分くらいもすれば、本当に軍隊みたいなザッザッザッザッ……って全部が合うわけ。不思議でしょう。これ完全にシンクロナイゼーション。自然がもっているシンクロナイゼーション。でもそのテンポはよくみると、全部違うままなんですよ。現代物理の難しいところなんで、分かりません私は。だけど、それはきっと、その6気筒とか、っていうその振動ですから、絶対関係あると思います。」
鈴木「ええ、だから、直列6気筒っていうんですけど、直列6気筒とかは本当に曇りのない、いいトレモロみたいな、すごくいい音がするんですよ。そういう意味では、ポルシェは水平対向6気筒ですけど、それもすごくいい音がするんですよ。音はみんな違うんですけどね。最近の車は凄いあざとくて、そういう音をドライバーに聴かせるように、不快と思う音を車内には遮断して、排気音含めて、いい音だけが聴こえるように、そういう音のチューンをやるようになったんですよね。」
坂本「良い音、悪い音ってのが、これはね主観的なものなので、それを誰かが決めて遮断するっていうのはどうなんですかね。」
鈴木「僕は好きじゃないですねえ。騙されてる感じがするんですよね。」
坂本「自動車文化っていうのをめぐる、ステレオティピカルなイメージっていうのを変えていかないとダメなんじゃないですか。」
<坂本龍一 × ナガオカケンメイ『d SCHOOL わかりやすい音楽』対談>
こちらは、2017年03月28日に、D&DEPARTMENT TOKYOで開催された『d SCHOOL わかりやすい音楽』の模様をオンエアしました。
斉藤「先ほど、ナガオカからも説明があったんですけれども、『d SCHOOL』は、なんとなく知っているけれど、その本質は意外とちゃんと知らない、そんな私達の生活の基礎になる大切な普通のことを、毎回ゲストをお招きして学ぶ会です。今回のテーマは「音楽」。明日8年ぶりにアルバムを発売する音楽家の坂本龍一さんが先生です。」
ナガオカケンメイ「よろしくお願い致します。あの冒頭、斉藤のあの緊張しまくってぎこちない解説がありましたが、分かりやすい音楽ということでやっています。今までサンタクロースを呼んだりとか、日本フィルハーモニー交響楽団の方を読んだりとかして、一体何をやっているのか、とサンタクロースに聞いたことがります。そういう勉強会で、今日は『音楽』……ですので、教授をゲストにお呼びして、"音楽ってなあに?" っていう質問を後でしますので……」
坂本龍一「そんな難しいことを(笑)……僕も知りたいんですけど。」
ナガオカ「えーと、僕は絶対、YMOの時代の坂本龍一のまんまで、でも音楽家だから、ちゃんとかっこいいこともしないといけないし、という事なんじゃないかなって思ってるんですけど、それは?」
坂本「全くないです、それは。」
ナガオカ「ないですか(笑)」
坂本「はい、あの頃からのファンの方は、非常に保守的で、あのままでいてほしいと多分思ってる方も多いんだと……」
ナガオカ「大丈夫ですか、すごいい敵に回す……(笑)」
坂本「いいんです、慣れてますから。ファンというのはそういうものですよ。それは僕も告白しなきゃいけないんだけど、数年前に、ジェームス・テイラーとキャロル・キングが日本に来たので、武道館に観に行ったんですよ。だけど、その『You've Got Friend』をなかなかやんない訳ですよ。……長いなぁ、なかなか演んないなぁ。知らない曲ばっかり歌ってんなぁ……って。」
ナガオカ「あっはっはっは(笑)」
坂本「それで、アンコールの1曲目にやっと歌ってくれたんですよ。あーよかった!って、すぐ帰りましたけど。で、僕も長い間、もうあんまりにも戦メリ戦メリ(戦場のメリークリスマス)って言われるんで、戦メリを10年くらいかな、弾かない時期もあったんですよ。もうやだ、もう飽きた、だってたくさん何百曲も曲作ってんのに、どこ行ったって戦メリでしょ、もうふざけんなと(笑)」
ナガオカ & 会場「(笑)」
坂本「で、もう反抗して弾かなかったときもあるんですけど、これもまた反省しましたね。自分も同じじゃないかと。『You've Got Friend』を聴きたいと思って。深く反省して、それからは戦メリ必ず弾くようにしています(笑)」
ナガオカ「次の質問です、『なんで音楽が必要なんでしょう?』」
坂本「分かりません。」
ナガオカ「あっはっはっは(笑)」
坂本「まあ、なぜ、音楽が必要なのかって、答えはないけども、僕らが言葉が必要なように、音楽っていうのは最初から人類にはあるんですよ……だと、僕は思います。」
ナガオカ「なるほど。」
坂本「で、何が作りたいんだろうって考えたら、それは、自分が耳にしたい、聴きたいものを作りたいわけですよ。当たり前の話だけど。あ、だけど、人によっては違うかな。その……お金が欲しいから作ろうっていう人ももちろんいるでしょうし、モテたいからとかね、ていう人もいるらしいんですよ。僕はね、本当にショックだったことがあって、僕のソロアルバム『千のナイフ』っていうのを作ったときに、盤が出来ました……当時はこういうアナログ盤ですからね。できた!って喜びさんで毎日のように行っていた、飲み屋みたいなカフェバーのようなところに行ってね、店員とも仲良くなっていたんで、その生まれて初めてのソロアルバムじゃないですか、いま出来たばっかりだよ!お店でかけてよって言って持っていったんですよ。そしたら、その仲良かった店員がしばらく聴いてて、「これじゃモテないっすよ」って言うの。」
ナガオカ「(笑)」
坂本「坂本さん、これじゃモテないっすよって言うんだよ(笑)、「お前どういう意味、それ?」って言ったら、「いやーこれじゃ、女の子にモテないっすねー」とか言ってて。ショックでね、それが。」
ナガオカ「あっはっは(笑)」
<坂本龍一 × 樋口泰人『アンドレイ・タルコフスキー』対談>
こちらは、2017年4月4日に行われた、オリジナルアルバム『async』完成記念「坂本龍一セレクション アンドレイ・タルコフスキー監督作:『鏡』『サクリファイス』特別上映会」でのトークショーの模様をオンエアしました。
樋口「どうも。」
坂本「久しぶり。」
樋口「あの、今日はせっかくなので、普段はしないと言ったら変ですけども、映画の話……」
坂本「まぁ……タルコフスキーはね、80年代からね……ポツポツは観ていて、好きな作家なんですけど、最近になればなるほど、どんどん好きになってきていて、去年8ヵ月ぐらいアルバム制作をしていたんですけども、このアルバムは架空のタルコフスキーの映画のサウンドトラック、ということにしようと。だけど、そこに決めてしまうのはいかがな、いかがなものかって意味じゃないな、その……それでいいのかという疑問はずっとあって、何ていうのかな、人間は誰でも可能性は無限大ですから、その何かを決めるってことは、その可能性をね……ひとつに絞ってしまうことでしょ。他の可能性はもう閉じられてしまうわけです。それはなるべくなったら引き伸ばしたいと思いませんか?」
樋口「そうですね、はい、それは……」
坂本「でもまあ、片や人生というのは決めていかねばならないことの連続でですね。そうやって生きていれば、可能性はどんどん捨てられていくわけですよ(笑)。それが生きるということかもしれませんけども。まー、でも決めたわけですよ。やっぱりタルコフスキーというと、どうしてもバッハとか、バッハをアレンジしたトラックとか目立つものの音楽の印象が強いんですけども、細かいところで、とても面白い仕事をしてるっていうのがね。」
樋口「これってどういうことなんですかね。監督の……」
坂本「多分、監督だと思います。作曲家は、こんなに小さく使われていて、音楽だかノイズだかわからないじゃないかと思って、観たときには腹を立てたと思います。だいたいそうなんです、普通。……こんな使い方しやがって!と思って、うう、ってなるんですよ、試写などを観るとね。だから心臓に悪いので、観ないようにしてんです、僕。出来上がったのは、ほんとに。」
樋口「まあ、監督はひどい人じゃないとなれないですよね(笑)」
坂本「本当にひどいですよね彼らは。……総じて。」
樋口「(笑)。ちょうど『ノスタルジア』か何かを撮ってるときのドキュメンタリーがあったんですよ、タルコフスキーの。で、その中でも、もう何か、ひどいことばっか言っていて、撮影が嫌いでしょうがないみたいな。もう、頭の中にかなり映像と音が出来上がっているみたいで、それをいちいち具体化していくのが、もう面倒くさくて仕方がないみたいな話をしていて(笑)、すごいそれが印象に残っているんですけど。」
坂本「じゃあ、もうやめろよと(笑)。……ね、想像だけで。だけど、まあみんな、嫌なやつが多いでしょうね。監督はね。ほんと憎らしい……ですよ。でもタルコフスキーなんかは、撮影中の写真はずいぶん冷静な顔をしていますけど、やはりそうなんですね。」
樋口「ええ、ずっとイライラしているみたいなことを言ってました(笑)」
坂本「嬉しいです(笑) ……やっぱりそうか。」
樋口「形になってくのは嬉しいけど、もどかしくてしょうがないみたいな。」
坂本「はぁー、面白いですね。その、監督たちがいかに酷いかというのを話そうと思いましたけど、それはまた別の機会に(笑)」
坂本「頭の方で火事があってね。次の『サクリファイス』の最後でも火事がある。 "火" というのも重要なテーマですよね。水、火、そして僕は……特にあの最初の方で、医者が向こうから歩いてきますよね。また、煙草を吸って、パンッと柵が壊れて、また帰っていきますよね。別に何かあるわけじゃないんですけど、そのときに風が、2回吹いてきますよね。当然、偶然じゃなくて、風をおこしてるんだと思うんだけど、大きな扇風機を回して。ちょっとね、感動的なんですよね。」
樋口「だから、あの風が頭の中でたぶん鳴っているんだと思うんです。」
坂本「そうなんですよ、魔術的なというか。それで、切り替えして、お母さんの顔になったときも、後ろの梢がガーッと風で揺れていると。それが2度、大きな風が草原の向こうからやってくるような、本当にあのシーンが好きで。ドキドキしちゃうんですよね。そしてまた、ちょっと経って、今度は火事でしょ。まあ、非常に魔術的ですよね。」
樋口「これは何か、ロシアという場所がそうさせるんですかね。」
坂本「絶対そうですよね。あと、父ってのは、何回か出て来るけど不在でしょ。当然、キリスト教世界では父というのは神なわけで、不在の神。そして、母っていうのは聖母マリアなわけで、まあ一種、大地ということで。そして、自然の中にある魔術というか、水とか風とか火というものが、重要なテーマで出てくる。それはもう完全に、遺作となった『サクリファイス』に受け継がれていて、今の『鏡』でもプーシキンの一説が引用されていて、同じキリスト教世界でもロシア的なキリスト教と、それ以外のヨーロッパの西洋のキリスト教は違う、という話が出てきたけど。それと、古いヨーロッパにあるゲルマン神話的なもの。あるいはケルト的なもの。ま、一種のミスティシズム……が、こうグチャッとね、整理されないで入っているところがね、タルコフスキーの魅力だと思うんですよね。」
樋口「それが魔術ってことにも繋がってくるという。」
坂本「繋がってくると思います。」
<『エコレポート』── エコロジーオンライン 上岡 裕>
「エコロジーオンラインの上岡裕です。3月末から4月の頭にかけて、マダガスカルを訪問してきました。独立行政法人の国際協力機構(JICA)が手がけている事業の調査のためです。このプロジェクトはマダガスカルの人たちが調理に活用する薪や炭を減らすため、燃焼効率のよいロケットクッキングストーブを導入するものなんですが、それとともに廃棄されているモミガラやオガ粉などの廃棄物を使って、固形燃料を作るというの事業の可能性を調べるものでした。このプロジェクトについてはJICAを卒業された方が関わっていたんですが、その方から、栃木の団体だからこそ、やるべき価値があると口説かれました。エコロジーオンラインが活動する栃木県佐野市は、江戸末期に田中正造という人が生まれ、明治時代に活動をした地域なんですが、足尾鉱毒事件といって、日本初の公害事件の被害者救済のために奮闘し、富国強兵の掛け声のなかで、抑圧されていく人や自然とともに生きた郷土の偉人なんです。その田中正造はこんな言葉を残しているんです。"真の文明は山を荒さず、川を荒さず、村を破らず、人を殺さざるべし。" ──田中正造の没後100年のときに、坂本さんに栃木の下野新聞という地方紙のインタビューを受けてもらったことがあります。その時に、この言葉をとりあげていただきました。この言葉を受けて坂本さんが、"森を失うのは文明の自滅だ" と語っていたのを思い出しました。」
「実際にマダガスカルの大地を踏みしめてみると、森が本当になくなっていました。首都:アンタナナリボから地方に調査に出てみると、はげ山に次ぐ、はげ山。木が生えている山を見つけるのに苦労するほどです。今回は雨が多い時期の訪問だったので、山々に草が生え、緑に見えました。でも、乾季になると赤茶色した土が露出し、砂漠化も心配される事態です。ガイドの方の言葉によれば、国の8割を占めた森林が現在は2割とか1割とか、とかいう状態になっていて、あちこちに "ラバカ" という山崩れも見受けられました。」
「田中正造に影響を受けて活動する僕らだから、マダガスカルの現状を知り、何かのアクションを起こして欲しい……とJICAのOBの方は考えたのかもしれません。マダガスカルの森林破壊の原因を現地で聞いてみると、牛などを育てるために森を草地に変えたり、水田をつくるために山を切り崩したり、安い木材として海外に輸出したり、調理用の燃料として森がどんどん切り倒されています。調理のために切られる木を少しでも減らそう、というのが僕らの事業です。しかし、果てしなく続く森林破壊を実際この目で見ると、僕らの存在はあまりに小さい。しかし、田中正造の時代の日本の森林破壊も相当ひどかったらしいんですね。石油石炭の代わりにどんどん森の木が燃やされて、はげ山ばかりだったともいわれています。でも、そんな状態から、7割を誇る森林を取り戻したのも我が国です。私たち一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、多くの人が関わるきっかけさえ作れれば、マダガスカルの砂漠化を止めることも不可能ではない気もします。マダガスカルで出会った子どもたちの目は、ピュアで光を失っていませんでした。この子たちに森を守りながら生きる術を教えていくような里山エネルギースクールをつくって、ぜひ現地の森を守っていく、地道な活動をしようと思いました。今後も、マダガスカルでの活動について、詳しくお話ししていきたいと思っています。」
<坂本龍一「ここ数日で聴いていた曲」プレイリスト>
「さて、僕が普段聴いてる音楽のプレイリスト(のコーナー)なんですけど、まあ普段聴いているというより、いまですね(笑) ……一昨日、昨日、今日まで聴いているものを紹介します。あの、それ以上古いともう自分でも覚えてないので。えーとですね、近々ですと、フランスの20世紀の作曲家ですね ……Maurice Durufléっていう、作曲家がいるんですけど。彼はオルガニストで、オルガン奏者ですね。それで世界の音楽学校の最高峰と言われる、パリ音楽院(パリ国立高等音楽・舞踊学校)のハーモニーの教授になった方ですね。その方の代表曲が『レクイエム 作品番号9』なんですけども、聴いてみましょう。」
- Requiem Kyrie / Maurice Duruflé
「何でこんなもの聴き出したか……前からたまに聴くんですけども、レクイエムといえばね、このDurufléより少し前の、Gabriel Fauréという人のレクイエムの方が有名ですけど、よくカップリングされてCDやレコードになってるということもありますけども、Fauréよりももう少し現代に近くて、ハーモニーづけとかがですね、なかなか面白いので、たまに聴いたりしてます。で、この人は学校の先生でもありましたから、お弟子さんでやはりオルガニストで作曲家もたくさん出ています。オルガン音楽というと日本ではあまり馴染みがない方も多いかもしれませんけども、当然、宗教音楽なので、実際にそのオルガニストで学校で教えているけども、どこかの教会の専属オルガニストとして、ミサで弾いたりとか、即興をしたりとかですね、そういう仕事もやっていて、現在も生きているジャンルなわけですね。まあ、特にフランスはカトリック国ですから、昔からグレゴリアン・チャントからの、中世から連綿と続いてきた教会音楽という歴史もあって、その流れの中で、現代もそういう作曲を行っている作曲家も、オルガンを弾いている人たちもいるわけなんですね。古色蒼然とした世界といえば、そうかもしれません。日本のお寺の声明に近いのかも、声明の現代版といってもいいのかもしれませんね。えーとですね、で、話は飛んでですね……昨日今日聴いているのは(笑)、これも僕は全然知らない……知らない人たちなんですけど、ほぼ。コンピレーションで、MONO NO AWAREという、日本語から取ってますね。アルファベットなんで、ノーアウェアに読めますね(笑)。MONO NO AWAREというコンピレーションがありまして、前回かけたYves Tumorっていう人も入ってますね。それでこれを聴いてるわけじゃないんですけど、現代のアンビエント・トラックばかりを集めたもので、そのセレクションの中心メンバーは、ベルリン在住の人だそうです。まあどういうものか、よくわからないんですけど、ちょっと面白いので聴いてるんですけど。その最初の曲は、Kareem Lotfyというアーティストの "Fr3sh" という曲です。」
「はい、次ですけど、いきなり変わりまして、このような曲を。」
- The Rain Song / The Afro-American Folk Song Singers
「はい、これは「the rain song」という曲で、プレイしているのは、歌っているのは、The Afro-American Folk Song Singersというクレジットになっています。なぜか急にね、あのー……あ、なぜかじゃないんだ、思い出しました。Pan Sonicのミカ(Mika Vainio)が、急にフランスの山の中で亡くなってしまったんですよね。それで、僕も何度か会って話もしたことがありますし、リミックスを頼んだこともありますし、僕と仲のいいChristian Fenneszなどが非常に親しい間柄だったので、ショックが大きくて……えー、みんな今でも落ち込んでいますけども。うーん。ちょっとあまりにも早く若く逝ってしまったので、何て言っていいかわからないんですけども、そのミカが聴いている、ミカのプレイリストみたいな映像がYouTubeにあがっていて、それを見たんですけど、いろいろなレコードを買っていたんですが、その中で、古いブルースと、それから武満徹が入っていたのが、それを特に好きだと言っていたのが、とても印象的で、ミカらしいなと思ったんですけども、そうですね、是非……ミカの曲、Pan Sonicの曲をかけましょうか。」
「うーん……はい。ほんとうに、ミカの魂よ安らかに、と言うしかありませんね……はい、えーと、もう1曲かけましょうか。Son Houseというアーティストの "Death Letter Blues"。」
- Death Letter Blues / Son House
「えーと、今月はこんなところでしょうか。さてどうでしたでしょうか。」
オーディション・コーナーは、U-zhaanと長嶋りかこさんでお送りしました。今回もたくさんのご応募ありがとうございました。さて作品の応募が、この番組サイトからデータでも送れるようになりました。(郵便での応募もひきつづき受け付けております。) こちらからお送りください。
RADIO SAKAMOTOオーディションに御応募頂いたデモ作品にまつわる個人情報の管理、作品の管理は、J-WAVEのプライバシー・ポリシーに準じております。詳細は、こちらを御確認ください。 |
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