「坂本龍一です。2ヶ月に一度、お届けしているレディオ・サカモト。前回の放送では "NO NUKES 2013" の録って出しのレポートを中心にお届けしたんですけども、反響も大きくて、とても嬉しかったです。あれから2ヶ月。今はですね、ニューヨークに行ってからは "朝ドラ" を観てるんで、ずっと長いんですけどね。あのー……いまの「あまちゃん」もほんとに、毎朝やるのも大変でしょうね。別にそのライブじゃないけど、毎日書いて、収録して……ってほんとに大変だろうなあと思いますけど、でも、クドカン(宮藤官九郎)さん、ちゃんとやってますね。大友良英さんもね、ちゃんと……ちゃんとって変ですけど(笑)、ちゃんと音楽やってますよね。あの大友さんがね…… "ガキーン" ってノイズを出してる大友さんが、あんなこう……素直な音楽でちゃんと仕事してるんで(笑)。坂本もちゃんと仕事しろ、みたいなプレッシャーを受けてますけどね、少しね。じぇじぇ……東北の方言も、まあ「八重の桜」もそうですけども、いい感じで耳に入ってきますけども。」
「さて今回の番組は、内容が盛りだくさんで、ロック・ミュージシャンの難波章浩さん。
現代音楽作曲家の藤倉大さん。そしてなんと、細野晴臣さんもお迎えします。更に、3月に来日したジェーン・バーキンさんのスペシャル・インタビュー。「八重の桜」のサウンドトラック、音楽を担当してもらっている中島ノブユキくんからのメッセージももらっています」
<ゲスト:難波章浩さん>
「一組目のゲストをお迎えします。難波章浩さんです。」
「はい、あーどうも。こんばんは。よろしくお願いいたします」
「ついこないだね、3月にNO NUKES 2013をやったときに観に来てくれたんだけど。去年の2012のときは、いっしょのステージで演奏もした訳ですけども、今年は敢えてね、分けてという感じで……」
「そうですね」
「一応、爺さん組と、若者組って言ってるんですけど(笑)」
「いや、そういう事ではないかなと思うんですけど。実際、ZEPP(ダイバーシティ東京)の方には、僕らなんかよりも若い世代のバンドたちがたくさんいたので……」
「ちょっとね、分け方がどうだったのかという感じが。だけど気持ちとしては、いろんな所でいろんな人たちがこう、自分たちが主体になって、ぼこぼこと、あっちこっちで、いろんな形でやろうよ。大きいのも小さいのもあってもいいし、時期もいろいろでいいんじゃないの。っていうような主旨だったんですよね」
「あのー……教授に、お食事に、お誘いをいただいてですね……」
「お食事(笑)」
「(笑) 呼び出されたというか」
「呼び出しくらったみたいな(笑)」
「えー、あの、はい、呼び出しくらっちゃってですね、はい。それで、「難波君、イケイケのをやってみなよ、若者たちで」と言われて。あの時はもう、自分で原発に対してのメッセージを持ったイベントを主催するなんて思ってもみなかったですよ、教授にお会いするまでは。もちろん気持ちはあったし、バンドとしてもみんなでそういう事も考えていたんですけども、教授が主催するNO NUKESに出演する……とか、そういう事……ぐらいというか。うーん、主催というとこまでは、正直……勇気が湧いてなかったですね。言われるまでは」
「僕は反対に、去年ね、NO NUKES 2012をやったときに、僕とかYMOとかクラフトワーク以外は、僕たちから言うと "若者たち" のバンドで、ほんとに皆に、なんていうのかな、こう、励まされたというか、熱をもらったというか。むしろ煽られたというか(笑)」
「あー、そうですか」
「うん。だから、どんどん自分たちでやったらいいのにな、と。当然やれるんだろうなと、すぐ思いましたけどね」
「うーん。あ、嬉しいです。やはり日頃、BRAHMANやKenYokoyama(Hi-STANDARD)、僕らもそうなんですけども、意識を持って結構Twitterとかでメッセージしてきた方だと思うんですよ。僕らは友達がロックバンドが多いので、3.11、そして原発以降、ロックをやっている人たちがどういう風にメッセージしていくのかな。っていうのは、気になっていたんですけど、意外にこう、声が上がってこなかったっていうのが僕の印象だったんですよ。そんな中、僕の同じ世代のKenYokoyamaやBRAHMAN、SLANGたちは、ものすごい声を発していたので、僕もTwitterとかでは、勇気を持って言ってた方なんですけどね。イベントをやるということまでは、教授に言われるまでは思ってなかったですね」
「最初にやった "NO NUKES 2012" で、みんなが集まってくれなかったら、もちろん続いてもいなかったし、あれで声をかけても、日本の若いロックバンドがそういうことに対して立ち上がんなかったら、僕もがっくりきてたと思うんですよね。でもほんとにやって良かったですね。で、何度も言うようですけど、ACIDMANの大木(伸夫)くんだったっけ、ステージMCで "僕らが言わなかったら誰が言うんだ" みたいな事、言ってたでしょう。ほんとにその通りだなと思って。こんな自由な仕事させてもらっている(笑)、ミュージシャンが言わずに誰が言えるんだってことでしょう」
「やっぱり教授や、忌野清志郎さんや……すごく発信してきた方たちの音楽を聴いて育ってきてたので、そういう意味では、僕たちが今やっぱ、言う……時が来てるんではないかと感じてたんですが、教授たちの活動は存じていたので、お会いして、僕らも逆にすごい勇気をもらったというか。教授の原発に対する想いとか、あー間違いない。と思えたし、ある意味、敬承しなきゃいけないのかなと思いました、その時に。ほんとに、はい(笑)」
「ふっふっふ(笑) それで "若者組"がですね、7月14日に渋谷AXでイベントをやります。「NO MORE FUCKIN' NUKES 2013」というタイトルです。」
「あの当日、USTREAMで全国のみんなにも観てもらいたくて、その場に居なくても、すごく意識を持っている人たち、やっぱたくさんいると思うんで、もちろん原発への考えとか、あんまりまとまってない人に観てもらいたいんですよ。実際、僕らがそうだし、アクションをどう起こすかとか、これからもまだまだ考えてかなきゃいけないし、みんなで考えたいんですよね。それには、まずはやってみることかなと思って」
「そうだね」
「一番やっぱり気になったのは、こないだの衆議院選挙の時に、若者の投票率がすごく低くて、若者つっていいのか言葉よく解んないすけど、若者世代の人たちが、原発とか自国のエネルギーの問題に対して、どう考えているのかなとか、すごく声を発せていないんではないかなと思うんで、そこをこう、後押しするのは僕らの役割なのかなと思っちゃったりしてて、最近」
「7月14日は選挙も近いしね。そういう、気持ちを訴えるというかね。どこに入れるにしろ、選挙は行った方がいい。自分の態度をちゃんと表明した方がいいから……というような声も訴えてもらえると嬉しいですね。昨年12月の選挙で自民党が大勝したというのは、僕はショックだったんだけども、原発の問題とかも忘れ去られたかのように、一般の大きなメディアではそのような感じになっていますけども、でも僕の実感としては、そんなに簡単に日本人は忘れてないだろうと、ずっと思っているんですよね。で。今年に入ってからの大きな新聞のアンケートなんかを見ると、やはり忘れてないですね。もちろん目の前の経済のことは大事だし、プライオリティを付けると経済が先に来てしまうんですけど、個別に "じゃあ、原発どうします?日本として" っていう風に聴くと、国民の7割ぐらいかな、が、何らかの形で、原発はもうやめようと思っている人が居ますよね」
「なのに。なのになぜ……」
「ただ、その選挙の一番の争点にならないということだよね」
「そこら辺ですよね。健康や安全がないと……」
「もちろんお金のことも大切ですけども、お金がないと生きていけないけど、まず生命というかね(笑)。生命が脅かされるようでは、お金もへったくれもないはずなんですよね。しかも、これからの日本の国を作っていくこどもたちの健康の問題でしょ。小さなこどもを抱えている親はたくさんいる訳ですから、その人たちがどう考えているのかね。まあ、まともな人間だったら、当然、心配なはずですよね」
「すごくなんか……言葉は解んないですけど、ごり押しな感じがしてしょうがないんですよね。民意ってのは、こう、表現できないでいますよね、日本っていうのは今」
「あのー、心配されてるのは、事故以来、原発のイメージが悪くなったので、"原子力をやろう" という若者が減るじゃないですか。そうすると、技術者とか専門家が減ってきて、廃炉の技術まで辿り着けないというね。日本には今も、50基、使用可能な原発があって、それも廃炉にしていかなきゃいけないんですけども、それをするのに、コストと技術を持って、最後までちゃんとできるのかっていうのが非常に心配ですよね。ほんとはもっと早く国民が気づいて、そんなものはお金が高くつくんで止めてよ、と言っとけばよかったんです。まあ税金と同じように自分たちのお金なんで、それがどう使われるのかってことに、ほんとに文句言った方がいいんですよね」
「そうですね。言わな過ぎなんですよね……やっぱり。て思って "NO MORE FUCKIN' NUKES" です、もう。……実はもう、正直、冷静ではいられないところもあるんですよ。もう……怒りですよね。なんですけど、未来を諦める訳にはいかないんで」
「そうだねぇ」
「はい。やっぱり今回、原発のことだけではなくて、放射能の基準値が違うんだぞってことも知ってもらいたいし、これから母親になる若い女の子たちとかご夫婦とかに知ってもらわなきゃいけないこともたくさんあるし、ほんとちょっと意識を、いまこれからの日本は敏感になっていかないといけないんだよ。っていうメッセージになればいいとも思っているんですよ」
「自分たちのことだからね……自分たちの健康、未来、家族、こどものこと、延いても国の事ですからね。嫌なものは嫌って言ってほしいですね。だたそのね、声が届かない感っていうのは、日本独特な感じもあるんですけど、視点を変えると、有名なキング牧師は暗殺されましたけど、60年代のアメリカの公民権運動……つい50年くらい前ですよね。あそこまで至るのに、何百年も歴史がある訳ですよね。なんで、あれを思い出したんですよ、今回の脱原発のいろんな事をやっていて。一方で日本人の多くは普通の人も含め、脱原発を望んでいる。と言いつつ、声を上げる人は少ないじゃないですか。だからやっぱり声を上げてる僕らは、マイナーなんだなあと思って(笑)……マイノリティ。その前だと女性の参政権ていうのも100年前にあって……だからそういう自由とか平等っていうのは、ちょっとずつしか進まなくて、時間のかかる事なんですよね」
「うーん……あ、てことは、原発に頼らなくてもいい社会になるという僕らの夢というのは、いつか叶うということなんですかね」
「必ずそっちには、放っておいてもなるでしょう。だって時間経てば使えなくなるから」
今回オンエアした楽曲、NAMBA69「STOP THE 54」について。
「曲を作ったときは、54基だったので "全て54基、止めてくれ" という願いを込めて作りました。リードパートの所なんですけど、サンプリングで、官邸前のデモの皆さんの声を入れさせていただきまして。そのアイデアは、教授のですね、Shing02君とのコラボの曲を聴いて、ひらめきました」
<ゲスト:細野晴臣さん>
「ここからは2組目のゲスト、細野晴臣さんです」
「はーい、どうも。こんばんは」
「こないだの3月のNO NUKES以来……」
「そうだよね、最近ライブでよく会うね(笑)」
「(笑) あと個人的には、今日の話の中心になる、細野さんの新しいアルバム『Heavenly Music』でカバーしている「Radio Activity」を送ってもらって、僕ひとりでね、ニューヨークのじぶん家の2階にあるピアノで……」
「響いてるよ、うん」
「多分よく聴いたらね、外の音とかね入ってると思うんですけど、防音もなにもしてないんで」
「あー、ほんと。全然気にならなかったね(笑)」
「それがあってね、最近こう "演ったな" って感じが、離れてはいてもするんですよね」
「演ったんだよね、一緒に。うん」
「でも出来上がりを聴いたら、随分変わってましたね。激しいドラムが途中から入ってきたりとか」
「そうなんだ。途中でね、変わっちゃった(笑) ライブ演ってて、ああいうパートを演ってたわけ」
「なるほどね」
「で、後に戻れなくて、もうやっちゃったの。そこだけ録ったの。後から」
「ほらあの、ライブでも何回か演ったことありますけど、ドラムが入ってないからいつも」
「静かにやってるよね」
「だから……ビックリしましたね(笑) でも、かっこいいですよ」
「あっはっは(笑) ありがとう」
「今回の『Heavenly Music』は、カバーが…‥」
「12曲、ぜんぶカバー。自分のも入ってるけど、それもカバー」
「割とカントリー&ウェスタンだけじゃなくて、幅広いポップソング含めて……」
「すごい広くなっちゃった。意図はしてないんだよな。ライブでずっと演ってた曲を集めてみたら、こうなっちゃったんだよ、うん。だからライブで演ってたから、その演奏、録音はすごく早いんですよ。その後が長かった(笑)」
「何をしてたの。こもって(笑)」
「漆塗りみたいなことをずっとね、うん」
「一応、スタジオでせーので録って、素材はもう、そこでできちゃった……」
「そっからが長いんだよ、うーん」
「逆にライブっぽく録音してるから、直すの難しいじゃない。音がかぶっちゃってるから……」
「難しかったあ……難しかった……」
「ね、わざわざ難しい方法で(笑)」
「そういう事が好きなんだなあ、へっへっへっ(笑)」
「今回はいろいろ、ゲスト・ミュージシャンの方たちも呼んでやってますね」
「あんまり全面には出てきてないんですけど、もったいないけど、しょうがない。そういう曲なんで(笑)」
「あのー、僕が小山田(圭吾)さんをギタリストとして使ったとき誰かに言われたんですけど、"鮪を買ってきて目だけ食べてる" みたいなね。あと全部、捨てちゃってるみたいなね。同じような感じですよね、岸田(繁)くんとか吉田美奈子とか、アン・サリーさんとか、Salyuさんとか」
「しょうがないね、やっぱ自分のソロだから(笑)」
「そん中でも、僕がびっくりしたのは、アン・サリーさんですね」
「アン・サリーさん、うんまいんだよ……」
「うまいですね、あと英語の発音がいい」
「いいでしょう」
「ほんとにびっくりした。この人、誰かなと思って……「Something Stupid」歌ってるんですけど」
「これ歌うと、すごい難しい。息が出来ないしね。タバコやめないと歌えないっていう(笑)」
「たはっ(笑) やめてください、もう早く。まだ吸ってるの」
「吸ってる、吸ってる(笑) だから、なるべくこの歌は歌いたくないね……」
「あとやっぱり、曲調から言うと、細野さんの「ラムはお好き? part 2」は、やはり違いますよね」
「ああ、他の曲と」
「他の曲と。やっぱり、独特の何か、細野節がありますよね……不思議」
「そうねえ、なんか。自分でも気になってたんだけど、言われたかあ。はっはっは(笑)」
「不思議。ま、ビートも大きいかな。ノリが……」
「そう、他の曲……ラテンがないなと思って。やっぱりラテンが好きなんで」
「ですよね」
「1曲もなかったんで、ちょっと考えてみて、ああ…ラムはお好きってラテンだあと思ってね、うん」
「すごい生っぽいアレンジで……演ってるけども、あの独特の、何ていうの……『泰安洋行』時代の感じ……」
「ああ、似てるわ」
「ああいうノリが出るんだね、不思議ね」
「変わってないみたい……『泰安洋行』から。30年以上(笑) 」
「でしょ(笑) いや、あれはすごいですよ。あのビートはなかなか出せないですよ」
「そうかな。あのー……生ギター、ナイロン弦のギターとマラカスだけが生なの。生で演りたい」
「ねえ。生で……でも難しいと思うなあ」
「演ってくださいよお」
「あっはっはっは(笑)」
「鮪の目玉にしないから(笑)」
「いやいやいや(笑) ちゃんと赤味も食べてくれる」
「うんうん、もちろん」
「今回は、アナログ盤も同時リリースなんですか」
「そうなんだよ。いっぱいあるの。今回のを入れて、過去のと3作品同時に」
「自分では、アナログレコードは聴いたりするんですか」
「プレイヤーなんだよ。あるの」
「ありますよ、たまに聴いてますよ。なんていうの、アナログ時代の歴史的な名盤とかあるじゃないですか。ロックもポップスもクラシックも……」
「あ、クラシックは違うだろうね、随分……」
「あとは、DSDって言うのかな。DSD録音ってしたことありますか」
「1ビットっていう意味が解んなくて……」
「僕も未だに解んないんだけど(笑)、確かに音は、むちゃくちゃいいですよ」
「いいんだ。僕はね、音がいい、っていうのにね、最近、疑問があるんだよ」
「あー、そうかそうか」
「今回も96kHzっていうレンジのすごい広い……ずっとそれでやってるんだけど」
「送ってきたファイルがそれで、ちょっとびっくりしました」
「ポップスに果たしてそんなレンジのいるかな、っていうね」
「あのね、現状を考えると、皮肉なことにCDが一番、音がいいんですよ。あとはMP3とか携帯で聴いてるわけでしょ」
「確かに」
「CD無くなる、無くなるってもう何十年も言ってるのに(笑) 44.1kHzの16ビットが、いちばん音がいいんですよ」
<ゲスト:藤倉大さん>
「今夜、3組目の現代音楽の作曲家、藤倉大さんです」
「こんばんはー。日本でお会いするのは初めてですよね」
「ですよね。ロンドンとニューヨークですもんね。それこそ去年、ジョン・ゾーンが持っている100人も入らない "The Stone" っていうライブの小屋があるんだけど、そこで1週間、キュレーションを任されて、自分は出なくていいはずだったのに、6日間連続出演しちゃって……それも1日、2回。全部インプロビゼーションですけど……」
「行きたかったですね」
「だから、1日2回、即興をやり続けたんで、もう……2日目の4回目くらいでさ、ネタが尽きちゃうじゃないですか。毎日だからね、新しい音を……そんなにでもさ、ピアノから新しい音なんてさ、もう出ないから……」
「そうですね、あんなに大きいのに」
「だから割り箸を50本分ぐらい持ってって、投げ込んでみたりとか、いろいろやったんだけど、そんなの一瞬で終わっちゃうから……ものすごい苦行でしたよ……12回公演」
「12回。ふーっ、すごいすねそれも」
「ちょっとね、お坊さんの修行みたいな感じでした」
「えーと、今日来てもらったのは、4月24日に発売された『ミラーズ - 作曲家の個展』というアルバムです。これは、去年、演った "作曲家の個展" というコンサートのライブ録音ですね」
「はい、そうです」
「その中から4曲を今回のアルバムに入れたんですよね。随分でもあの、ライブ録音だから、音楽自体の録音は1回で、ライブで済んじゃうんだけど、その後の処理が、時間かかってましたよね」
「大変でした。まあ一応、素材は僕が編集、ミックスしたんですけど、なるだけ譜めくりだとか咳だとか、そういうのを取り除くのは当り前ながら、クラシックの録音でよくある "ライブの醍醐味をCDに真空パックする" っていうのは、よくされることなんですけど、僕はそれは不可能だと思うんですね。ですので、録音でしか聴けない、録音でしか体験できないミックスを、僕はしたくてですね。ですので、本番というか、生では聴けない体験がこの録音でできると思うんです。ある意味では、クラシックのミキサーから言ったら、タブーな事とかもやってますね」
「切り貼りをしてる」
「切り貼り……だけじゃなくて、オーケストラがクレッシェンドする時とか、単純な話、(コンサート)ホールの残響を録るトラックから音量を抜いていって、それで個別の楽器に近いマイクの音量をどんどん上げていく、ことによって、オーケストラが近づいてくるような、感じになるじゃないですか」
「そんなことしてるんですか。残響を減らすと、音が前に出てきますからね」
「そういう事を、音楽に添ってやったりとか。そういのって、生で聴く場合、椅子が動かない限り無理なので……」
「人が動いてきたりね(笑)」
「あとホールの大きさが変わったりとか、そういう(笑)。かなり……120時間くらい、トータルでかかりましたね。家でやったので大変でしたね。家は、二間しかなくて、それで奥さんと1歳の娘に家から出てもらって、作業できるように……」
「(笑) ど、どうするの、その間は」
「12月と1月だったので寒いんですよね。買い物がてら歩いたり、ロンドンだから雨か雪が降ってますから、50分とか1時間とか、出てる間にミックスをやったり……大変でしたけど。こういった作品でこんだけ、僕は将来、時間をかけてミックスすることはないと思いますね。」
「うーん。そういうクラシック畑でそういうことを始めたのは、グレン・グールドなんでしょうね。録音でしかできない音を作ろうっていうね。ブーレーズの60年代の終わりの頃のを聴いても、かなりやってますよね」
「そうですね、ピッチカートが変に聴こえたりとか」
「そう。ハープがこんなにでかく聴こえたりだとかね。現実にはあり得ないバランスになってますよね(笑)」
「リスナーが、どこに座ってんだっていう(笑)」
「ハープの隣にいる感じになっちゃうんですよね」
「その時だけ」
「その瞬間だけ。欲しいときだけね(笑)」
「やはり、その依嘱されて曲を書くケースが多いんでしょ」
「そうですね。そこがまあ、僕の生活源ですね」
「失礼ですけど、生活になってますか……現代音楽でしょ」
「そうですね、もうね……大変ですよ。僕がまた頑固に、教えないっていう。普通だってみんな教授っていうか、教えながら、作曲もするじゃないですか」
「そうだね」
「僕のちっちゃい頃からの夢ってのは "作曲家" になりたかったので、一応、王立音大の教授ってことになってるんですけど、生徒はひとりで、しかも時給。大学が時給で払うんですよ。ですから、生徒はくれるな、払わなくていいから。っていう、一応6,000円くらい。一ヶ月(笑)」
「教授会なんて当然、出たことないんですか」
「そういうの出ないって状況で、僕も承諾しているので。だから大変ですよ、生き延びてるって感じです。大変です」
「奥さんはブルガリアンだよね」
「全然なんか、あの、感覚が違うというか。貨幣がなくなったときの事とかも覚えているらしいですよ」
「ええ〜。でも奥さんは元チェリストで、耳がいいよねえ、やっぱね」
「うん、ある意味、僕よりも耳がいいことがあります、ある面で。坂本さんも多分お解りかもしれませんが、絶対音感を持っていてピアノとかやってると、相対音感を持ってる、例えば弦の人たちだとか、感覚で取る人たちだと……僕たちだったら、ソはソじゃないですか。でも彼らにとっては、ソからミに行くときのミっていうのは、結構いろんなピッチがあったりするらしいですね。そういうので見たときに時々、彼女がシャワーから出てきて、髪の毛を拭いてるときに、流れてたミックスの音をキャッチして指摘してきたり」
「弦の人ってさ、作曲家は鍵盤で考えちゃう人が多いじゃない。弦の人の耳って独特だよね。例えば、ミもさ、上から降りてくるミと下から上がってったミと違うらしいじゃない。違っていいわけって思うけど(笑)」
「どう、到達するかにもあるらしいですよね、そこに。不思議ですよね」
「ミはミだと思うのに、違うんだよ(笑) それが弦のおもしろさでしょうね」
「大くんもさ、一度、この番組にテープを送ってきてくれたことあるじゃないですか。なので、若いみんなのために、何かメッセージをください。何か励ましのおことばを……」
「いやー、そうですね。僕的に言えば、作曲って、いろんなところにアイデアが落ちてるといえ、好きなものにも嫌いなところにも落ちてると思うので、なるだけ自分が得意じゃないとか好きじゃないと思うもの……も、含めて、そのアイデアをフォーカスして見つけようとすることが大切じゃないかと思います」
「大くんは "今週は、この嫌いな作曲家を研究しよう" っていうのがあるんでしょう」
「はい、あります」
「どんな曲でも、スコアとにらめっこしながら聴いたら、絶対に発見があるもんね」
「反面教師的なものでもあると思います」
<スペシャルインタビュー:ジェーン・バーキンさん>
今回のワールドツアーで、アメリカ、カナダ、ベルリン、シドニー、イタリア、ポルトガルで、大成功を収めました。
日本のミュージシャンと一緒に世界を回ってみて、仕事をすることの幸せを思い出しました。そして、日本人がどれだけ、人生を楽しんでいることか。ことあるごとに、それを世界に伝えています。私は、彼らのおかげで、毎日に「ありがとう(メルシー)」と、感謝することが出来ています。どの国でも、私が日本のミュージシャンを紹介し始めると、観客は立ち上がって喝采してくれます。最も嬉しいひと時でした。私やセルジュのためではなく、日本のための拍手なのです。
オーディション・コーナーで紹介した作品はこのサイトでも試聴できます。またコーナーは、全体を世界へ向けてポッドキャスティングでインターネット配信しています。すでに著作権管理団体に登録している作品の応募は受け付けられませんので、オーディションに応募される方はご注意下さい。
※オーディション応募作品をじっくりと聴けるポッドキャスティングは近々このサイトにUPされます。お楽しみに! |
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RADIO SAKAMOTOオーディションに御応募頂いたデモ作品にまつわる個人情報の管理、作品の管理は、J-WAVEのプライバシー・ポリシーに準じております。詳細は、こちらを御確認ください。 |
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■難波章浩さんの "STOP THE 54" Tシャツと、
ジェーン・バーキンさんのLIVEパンフレットをセットで2名の方にプレゼント!
今回は、今夜のゲスト、難波章浩さんの "STOP THE 54" Tシャツと、ジェーン・バーキンさんのLIVEパンフレットをセットで2名の方にプレゼントします。
番組の感想やメッセージも、ぜひお書き添えのうえ、コチラからご応募ください(教授と番組スタッフ一同、楽しみにさせていただいてます)。当選者の発表は、発送をもって代えさせていただきます。
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